March 27, 2016
アンスネスは語る -リスト録音-
ネットラジオでピアニストのアンスネスがリストの録音について語っていました。簡単にまとめてみたいと思います。
● リスト録音との出会い
「記憶が曖昧だけど、たぶんマルタ・アルゲリッチの演奏するピアノ協奏曲やソナタだったと思う。子供の頃に僕は愛の夢やコンソレーションは演奏していたけど、こんな曲を演奏するなんて不可能だと思ったよ。印象的で色彩感に溢れ、3人のピアニストが演奏してるのかと思った」
● リパッティのペトラルカのソネット104番
「これまでに存在した最も偉大なピアニストの一人。最も大きな影響を受けた。ピアニスティックに完璧で洗練性の極致で比類がない。流れが自然で自発性に富んでいる」
● カペルのハンガリー狂詩曲11番
「燃え盛るような情熱があり、確信に満ちている。このような曲はノンシャランにお行儀よく演奏されることが多いけど、カペルはリスクを恐れずにドラマを創出してる」
● ファウスト交響曲について
「信じられないくらい先進性がある。友人のアントニオ・パッパーノも興奮気味に言っていたが、チャイコフスキーへ大きな影響を与え、そして12音技法のように書かれた部分もある。とても野心的でワーグナーがこの曲を気に入ったのも不思議ではない」(バーンスタインのファウスト交響曲が流れますがこれはアンスネスではなくDJのトム・ハイゼンガが録音を選びました)
● ユジャ・ワンのロ短調ソナタ
「フレッシュでラプソディック。無限の可能性を感じる」
● アムランのハンガリー狂詩曲2番
「彼は作曲家的な視点も持ち合わせていてカデンツァを作曲している。そこでは聴いたこともないような豪華絢爛な技巧が繰り広げられる。ヴィルトゥオジティというものは楽しくてエキサイティングなものだね」
● 自身の演奏するノネンヴェルトについて
「この曲は自然的、瞑想的であり情景を感じることができる。巡礼の年のような作品もそうだが、聴衆に映像や匂いを感じさせることができる」
● ゲザ・アンダの森のざわめき
「アンダはお気に入りのピアニストですが、過小評価されてます。この演奏はサプライズに満ちていて、自発的で推進力がある。こういうサプライズは普通計算されてなされるものだけど、彼の演奏は計算がなく自然」
● バルトークのスルスム・コルダ
「これは録音も悪く、ミスタッチもありますが興味深いので選びました。この曲は通常静的に演奏されることが多いですが、彼の演奏は内的エクスタシーと幸福感が感じられます」
〔感想〕
アンスネスは現在、世界の第一線で活躍しているピアニストですが、そのようなピアニストでも新旧問わずいろいろな録音を聴いているんですね。やはりリパッティのペトラルカは名演ですね!ものすごい興味深い会話でした。途中でリストのことについても語っていました。「リストはある意味で底の浅いポップスターでいることもありました。ピアニスティックな観点から言えば見事な曲でも、底の浅い曲もいくつかあります。彼は聴衆を目の前にしてどのように成功するかを計算していた部分もあります。そういう意味では現代人のようでもありますね。しかしだからと言って彼に精神性の深い部分が無いということではないのです。例えばブラームスは多くの作品が素晴らしいので偉大な作曲家とみなされます。一方リストは底の浅い作品もいくつかあり、そして偉大な傑作も残しています。底の浅い作品があるからリストはそれほど偉大な作曲家ではないと言う人もいますが、私はそうは思いません」とアンスネスは語っています。僕が思うにこの意見はとても真っ当であり、フェアな見方だと思います。アンスネスがリストを誤解無く捉えてくれているのは嬉しいです。彼は最近あまりリストを演奏していないようですが、これからも期待したいです。
関連記事: liszt piano recital: leif ove andsnes
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March 24, 2016
VOLODOS PLAYS LISZT
VOLODOS PLAYS LISZT
1. オーベルマンの谷 〔ヴォロドス編〕 S.160/6
2. 物思いに沈む人 S.161/2
3. 小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ S.175/1
4. 調性のないバガテル S.216a
5. ハンガリー狂詩曲 第13番 〔ヴォロドス編〕 S.244/13
6. 婚礼 S.161/1
7. "泣き、嘆き、憂い、おののき" 前奏曲 S.179
8. 葬送曲 S.173/7
9. 悲しみのゴンドラ II S.200/2
10. 夢の中で S.207
SONY CLASSICAL 88697096122
Recorded: 2006
〔メモ〕
ガリーナ・エギアザロワ、ジャック・ルヴィエ、ドミトリー・バシキーロフに師事したヴォロドスのリスト集です。ロシア・ピアニズムとフレンチピアニズム両方の流れを汲むピアニストとなります。
現代を代表するスーパーヴィルトゥオーゾといえばアムランやカツァリスを思い浮かべますが、その両横綱の次の世代のスーパーヴィルトゥオーゾ代表の座はおそらくヴォロドスのものとなるでしょう。「ヴィルトゥオジティー」という観点から言うならば、このディスクの目玉はハンガリー狂詩曲13番です。この曲はホロヴィッツも編曲して演奏していますが、ヴォロドスは尊敬するホロヴィッツのその編曲を参考にし、更に自分なりの改編をして演奏しています。目も眩むような絢爛豪華な音のシャワーを堪能することができます。
しかし技巧性ばかりに注目して紹介をするのは読者の方に誤解を与える危険性があります。彼のもう一つの特徴は真珠のように丸く、まろやかな美しい音色と言えます。彼は絢爛な技巧で聴衆を圧倒するだけではなく、美しい響きで聴衆をウットリさせることもできるのです。夢の中で、婚礼や聖フランチェスコなどはとろけるような美しさがあります。いろいろな意味でこのディスクは驚嘆すべき瞬間に満ち溢れています。
オーベルマンとハンガリー狂詩曲は大幅に(大胆に)改編されていたので〔ヴォロドス編〕と表記しましたが、他の曲も多かれ少なかれ改編はされています。
フランツ・リスト→パウル・パブスト→アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼル→ガリーナ・エギアザロワ→アルカディ・ヴォロドス
フランツ・リスト→アレクサンドル・ジロティ→アレクサンドル・ゴリデンヴェイゼル→ドミトリー・バシキーロフ→アルカディ・ヴォロドス
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March 17, 2016
リストのややこしい事4 -ラーコーツィ行進曲編-
試聴はこちらからどうぞ(YouTube)
● 代表グループ
- 〔A〕ハンガリー狂詩曲 第15番 ラーコーツィ行進曲 S.244/15
- 〔B〕ハンガリー狂詩曲 第15番 ラーコーツィ行進曲 〔異稿〕 S.244/15bis
- 〔C〕ラーコーツィ行進曲 〔普及稿〕 S.244c
まず「リストのラーコーツィ行進曲」と言えばハンガリー狂詩曲のもの〔A〕を指します。リストの代表曲の一つとして親しまれています。〔B〕はそのオッシアを演奏した異稿であり、〔C〕は〔A〕を簡素にしたものです。
● 前身グループ
- 〔D〕マジャール狂詩曲 第13番 ラーコーツィ行進曲 S.242/13
- 〔E〕ハンガリーの民俗旋律 (ラーコーツィ行進曲 マジャール狂詩曲 第13番a) S.242/13a
- 〔F〕ジプシーの叙事詩 第7番 ラーコーツィ行進曲 S.695b/7
マジャール狂詩曲という曲集はハンガリー狂詩曲集の前身となるものです。つまり〔D〕が発展して〔A〕となります。〔E〕は〔D〕の簡易稿です。〔F〕は楽譜が書かれておらず「マジャール狂詩曲 第13番(おそらく簡易稿)を挿入するように」という指示があるだけなので、つまり〔E〕=〔F〕となります。
● 編曲グループ
- 〔G〕ラーコーツィ行進曲 〔管弦楽稿より編曲〕 S.244a
- 〔H〕ラーコーツィ行進曲 〔管弦楽稿より簡易編曲〕 S.244b
リストはラーコーツィ行進曲の旋律を使用して管弦楽作品も書いている。〔G〕はそのトランスクリプションであり、〔H〕は〔G〕の簡易稿。
● その他グループ
- 〔I〕ラーコーツィ行進曲 〔第1稿〕 S.242a
- 〔J〕ラーコーツィ行進曲 〔第1稿・異稿〕 S.692d
- 〔K〕アルバムリーフ "ラーコーツィ行進曲" S.164f
〔I〕は1839年辺りに書かれた、ラーコーツィ行進曲を使用した最初期のピアノ作品。〔J〕は〔I〕の簡易稿だが未完。〔K〕は戯れに書いたと思われる20秒弱の楽想。
● ホロヴィッツ
- ラーコーツィ行進曲 〔ホロヴィッツ編〕
ベルリオーズもラーコーツィ行進曲を使用した管弦楽作品を書いている。そのベルリオーズ版の編曲とリストのピアニズムを参考にしてホロヴィッツが再編成したものがこのホロヴィッツ版ラーコーツィ変奏曲。
ホロヴィッツ版の試聴はこちらからどうぞ(YouTube)
関連記事: リストのややこしい事1 -アヴェ・マリア編-
関連記事: リストのややこしい事2 -悲しみのゴンドラ編-
関連記事: リストのややこしい事3 -子守歌編-
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March 14, 2016
KENTNER: The pioneering Liszt recordings Vol.2
LOUIS KENTNER: The pioneering Liszt recordings Volume 2
1. ウィーンの夜会 第6番 〔第2版〕 S.427/6iii (シューベルト=リスト)
2. パガニーニによる大練習曲 第2番 オクターブ S.141/2
3. パガニーニによる大練習曲 第3番 ラ・カンパネラ S.141/3
4. パガニーニによる大練習曲 第5番 狩り S.141/5
5. ラ・レジェレッツァ S.144/2
6. 小人の踊り S.145/2
7. 愛の夢 第3番 S.541/3
8. 鬼火 S.139/5
9. ゴンドラ漕ぎの女 S.162/1
10. タランテラ S.162/3
11. R.W. - ヴェネツィア S.201
12. 夢の中で S.207
13. 死のチャールダーシュ S.224
14. 《預言者》の描写 第2番 スケートをする人々 S.414/2 (マイアベーア=リスト)
apr APR 5614
Recorded: 1937-1951
〔メモ〕
ルイス・ケントナーによる先駆的リスト録音集の第2弾です。リスト直系ピアニストのアルノルド・セーケイに師事しました。同じくリスト直系のバルトークとも深い親交を結び、バルトーク作品の初演をいくつか行いました。これら録音はケントナーがコロムビアレーベルに残したものですが、当時はリスト作品の評価は低く、これだけのリスト録音をすることはリスクを伴うものでした。実際これら録音は近年になるまで無視され続けてきたそうです。「R.W.」「夢の中で」「死のチャールダーシュ」「預言者の描写」は世界初録音ですが、これらの当時珍しい作品を録音できたのはリスト愛の為せる業でしょう。最終的にケントナーの地道な活動がリスト受容に与えて影響は大きいと思います。
演奏の方は口当たりの良いシャンパンのような爽やかなタッチで音楽が紡がれています。イギリスの作曲家コンスタント・ランバートは「(ケントナーのように)パワーに溢れ、それと同時にデリカシーや音色の微細な変化を持ったピアニストは聴いたことがない。彼を数少ない第一級のピアニストに数え上げることに私は何の躊躇もしない」とケントナーの演奏を讃えています。
フランツ・リスト→イシュトヴァーン・トマーン→アルノルド・セーケイ→ルイス・ケントナー
関連記事: Louis Kentner: The pioneering Liszt recordings
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March 06, 2016
レスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 -インデックス-
Disc.2 若き日のリスト 2
Disc.3 12の大練習曲
Disc.4 超絶技巧練習曲
Disc.5 パガニーニ練習曲全集
Disc.6 前奏曲 ・ 演奏会用練習曲 ・ レーナウのファウストからのエピソード
Disc.7 旅人のアルバム 1
Disc.8 旅人のアルバム 2
Disc.9 巡礼の年 第1年 スイス
Disc.10 巡礼の年 第2年 イタリア
Disc.11 巡礼の年 第3年
Disc.12 バラード ・ 伝説 ・ ポロネーズ
Disc.13 詩的で宗教的な調べ 1
Disc.14 詩的で宗教的な調べ 2
Disc.15 マリアの連梼
Disc.16 幻想曲 ・ 変奏曲 ・ 葬送頌歌 ・ 演奏会用独奏曲
Disc.17 ソナタ ・ エレジー ・ コンソレーション ・ グレートヒェン ・ 死の舞踏
Disc.18 クリスマスツリー ・ 十字架の道行
Disc.19 後期作品集
Disc.20 ワルツ集
Disc.21 舞曲 ・ 行進曲 1
Disc.22 舞曲 ・ 行進曲 2
Disc.23 聖エリザベト ・ キリスト ・ 聖スタニスラウス
Disc.24 愛の夢 ・ 歌の本
Disc.25 太陽讃歌 ・ ゆりかごから墓場まで
Disc.26 いと高く!
Disc.27 レスポンソリウムとアンティフォナ 1
Disc.28 レスポンソリウムとアンティフォナ 2
Disc.29 いざ楽しまん ・ 行事用作品
Disc.30 国歌 ・ 国讃歌による幻想曲集
Disc.31 マジャールの歌 ・ マジャール狂詩曲 1
Disc.32 マジャールの歌 ・ マジャール狂詩曲 2
Disc.33 ハンガリー狂詩曲 1
Disc.34 ハンガリー狂詩曲 2
Disc.35 ハンガリーのロマンツェーロ
Disc.36 スペイン狂詩曲
Disc.37 リスト、オペラにて 1
Disc.38 リスト、オペラにて 2
Disc.39 リスト、オペラにて 3
Disc.40 リスト、オペラにて 4
Disc.41 リスト、オペラにて 5
Disc.42 リスト、オペラにて 6
Disc.43 リスト、オペラにて 7
Disc.44 リスト、オペラにて 8
Disc.45 リスト、オペラにて 9
Disc.46 リスト、オペラにて 10
Disc.47 リスト、オペラにて 11
Disc.48 リスト、オペラにて 12
Disc.49 リスト、劇場にて
Disc.50 システィーナ礼拝堂にて ・ バッハトランスクリプション
Disc.51 ヘクサメロン ・ 幻想交響曲
Disc.52 サン=サーンス ・ ショパン ・ ベルリオーズ トランスクリプション
Disc.53 アラベスク
Disc.54 ベートーヴェンの七重奏曲
Disc.55 フンメルの七重奏曲 第1番
Disc.56 フェルディナント・ダーヴィットの色とりどりの小品
Disc.57 舞踏の時
Disc.58 無言歌 1
Disc.59 無言歌 2
Disc.60 音楽の夜会 ・ イタリアの夜会 1
Disc.61 音楽の夜会 ・ イタリアの夜会 2
Disc.62 ベートーヴェンの交響曲 - ピアノスコア 1
Disc.63 ベートーヴェンの交響曲 - ピアノスコア 2
Disc.64 ベートーヴェンの交響曲 - ピアノスコア 3
Disc.65 ベートーヴェンの交響曲 - ピアノスコア 4
Disc.66 ベートーヴェンの交響曲 - ピアノスコア 5
Disc.67 初期ベートーヴェン・トランスクリプション 1
Disc.68 初期ベートーヴェン・トランスクリプション 2
Disc.69 初期ベートーヴェン・トランスクリプション 3
Disc.70 シューベルト・トランスクリプション 1
Disc.71 シューベルト・トランスクリプション 2
Disc.72 シューベルト・トランスクリプション 3
Disc.73 シューベルト・トランスクリプション 4
Disc.74 シューベルト・トランスクリプション 5
Disc.75 シューベルト・トランスクリプション 6
Disc.76 シューベルト・トランスクリプション 7
Disc.77 シューベルト・トランスクリプション 8
Disc.78 シューベルト・トランスクリプション 9
Disc.79 シューベルト & ウェーバー・トランスクリプション
Disc.80 草稿 ・ 改訂案 1
Disc.81 草稿 ・ 改訂案 2
Disc.82 草稿 ・ 改訂案 3
Disc.83 草稿 ・ 改訂案 4
Disc.84 草稿 ・ 改訂案 5
Disc.85 珍曲 ・ 奇曲 ・ アルバムリーフ ・ 断章 1
Disc.86 珍曲 ・ 奇曲 ・ アルバムリーフ ・ 断章 2
Disc.87 珍曲 ・ 奇曲 ・ アルバムリーフ ・ 断章 3
Disc.88 珍曲 ・ 奇曲 ・ アルバムリーフ ・ 断章 4
Disc.89 新発見 1
Disc.90 新発見 2
Disc.91 新発見 3
Disc.92 新発見 4
Disc.93 ピアノフォルテを伴う朗唱
Disc.94 イタリアのハロルド
Disc.95 ピアノと管弦楽のための作品 1
Disc.96 ピアノと管弦楽のための作品 2
Disc.97 ピアノと管弦楽のための作品 3
Disc.98 ピアノと管弦楽のための作品 4
Bonus Disc ピアノと管弦楽のための作品
レスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 -後記-
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February 28, 2016
レスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 -後記-
レスリー・ハワードの残した偉業であるリストのピアノ作品全集の紹介を締めたいと思います(いくつか過去記事の修正はこれからもしていきたいと思います)。
● データ
レーベル: ハイぺリオン
ディスク枚数: 98枚 + ボーナスディスク1枚
世界初録音: 300曲以上
受賞: アメリカ・リスト協会名誉勲章、ハンガリー政府文化勲章、フランツ・リスト名誉勲章(ハンガリー)、ディスク大賞(6回)、ギネス世界記録(一人の音楽家による最も巨大な録音プロジェクト)
● プロジェクトのはじまり
ハイペリオンというレーベルはヒューイット、アムラン、ハフなど実力派ピアニストを擁するレーベルです。ハワードはハイぺリオンレーベルの創設者である故テッド・ペリーに直々にスカウトされました。そしてハワードがリストのオリジナルワルツをリサイタルで演奏し、その同プログラムをスタジオ録音したことがこのプロジェクトの始まりのきっかけとなります。途中これは無理だと思うことがあったとご本人は回想されています。
● 感想
ブゾーニの弟子グイド・アゴスティに師事したハワードの演奏ですが、オーソドックスでスッキリしています。そしてリスト愛に溢れた演奏です。もの凄く早いペースで録音しなければいけなかったために、準備不足を感じる部分もありますが、全体的にはテクニカルで達者です。この物量を一人で演奏するという事は信じられないことです。さすがブゾーニ直系のピアニストと言えましょう。大半は教会内で録音されたらしく独特の残響が耳に心地良いです。
内容はリストのオリジナル作品、編曲作品、稿違いなどリストが残したおおよそ全てのピアノ作品の(演奏可能な)譜面を録音した膨大なプロジェクトです。ハワードが世界初録音したものも多く含まれます。このボックスセットは観賞用の価値だけでなく、資料的価値も高いものです。リストが好きだという方には大推薦いたします。
HMV : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
タワレコ : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
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April 04, 2014
レスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 Bonus Disc
The Complete Liszt Piano Music
ピアノと管弦楽のための作品
Bonus Disc
1.-4. ハンガリーのツィゴイネルワイゼン "ハンガリー様式の協奏曲" S.714 (メンター=チャイコフスキー)*
*カール・アントン・リッケンバッヒャー指揮/ブダペスト交響楽団
Hyperion CDA67403/4
Recorded: 1997/1998
〔メモ〕
Disc.99ではなくBonus Discとなっているのは、リストがこの作品に関与したかどうか、または関与しているならどの程度関与したのかが不明なため。 〔1〕~〔4〕ツィゴイネルワイゼンとは「ジプシーの旋律」の意。リストの弟子で当時の高名なピアニストであったゾフィー・メンターが音素材を用意した(彼女が作曲をしたのか、それとも収集したものなのかは不明)。1892年に彼女の友人であったチャイコフスキーに、その素材を基にピアノ協奏曲を組み立てるように依頼した。この作品の出版譜は音楽的に不自然な点がいくつかあり、本当にチャイコフスキーが意図した形になっているのかどうか不明。リストは1885年にメンターの所有するイッター城に2日間滞在したと言われている。その2日間にリストがこの作品に手を加えた可能性がある。
HMV : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
タワレコ : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
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January 26, 2014
レスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 Disc.98
The Complete Liszt Piano Music
ピアノと管弦楽のための作品 4
Disc.98
1.-6. 悲愴協奏曲 〔リスト/ロイス共編〕 S.365a*
7.-10. コンツェルトシュテュック 〔独奏部リスト編〕 S.367a (ウェーバー)*
11.-20. 死の舞踏 - ピアノと管弦楽のための幻想曲 〔"深き淵より"編入稿〕 S.126i*
21. 死の舞踏 第7変奏 〔初期稿〕
22.-25. ハンガリー民謡による幻想曲 S.123*
*カール・アントン・リッケンバッヒャー指揮/ブダペスト交響楽団
Hyperion CDA67403/4
Recorded: 1997/1998
〔メモ〕
〔1〕~〔6〕ピアノ独奏曲「演奏会用大独奏曲」をリストの弟子エドゥアルト・ロイスがピアノ協奏稿へ編曲し、リスト自身がいくつかの変更を加えたもの。リストはこの編曲をロイスのものとして出版するように手配したため、リストの作品カタログでこの作品が言及されることはない。晩年のリストが関与しているだけあって、初期の試みを演奏可能にしただけのピアノ協奏稿「演奏会用大独奏曲 S.365」(Disc.96)より完成度は高い。関連作品であるピアノ独奏稿「演奏会用大独奏曲 S.176」はDisc.16に収録。 〔7〕~〔10〕ウェーバーの「小協奏曲 Op.79(コンツェルトシュテュック)」をリストが校訂した指導版。リストはピアノパートのみ変更を加えていて、オーケストラパートはオリジナルのまま。このウェーバーの小協奏曲はリストお気に入りの作品であり、この指導版の他にピアノ独奏版も作っている。そのピアノ独奏編曲「コンツェルトシュテュック S.576a」はDisc.79に収録。 〔11〕~〔20〕リストは1847年ごろから「死の舞踏」を作曲し始めた。そしてその第1稿は1849年に一度完成したと言われる。そしてリストは1853年にその初稿へいくつかの改訂を加えた。ここでハワードが録音している〔"深き淵より"編入稿〕はブゾーニによる校訂版。初稿自筆譜の所有者がその自筆譜の閲覧許可をハワードへ出さなかったため、このブゾーニ版は1849年の初稿のままなのか、それとも後の改訂を含めたものなのか不明。そもそもこのブゾーニ版がリストの書いたものにどの程度忠実なのか不明。この稿の最大の特徴は単旋律聖歌「深き淵より」の旋律を使用した部分があること。最終稿はDisc.95に収録。 〔21〕「死の舞踏 ブゾーニ版」の第7変奏(当ディスク・トラック17)のさらに前の初期稿。ブゾーニ版の楽譜に付録として収録されているもの。 〔22〕~〔25〕演奏される機会の多い協奏作品。通称「ハンガリー幻想曲」。「マジャールの歌 第10番 S.242/10」(Disc.31)と「マジャール狂詩曲 第21番 S.242/21」(Disc.32)とハンガリー民謡「モハーチの野原」を素材として使用している。同じくS.242/10とS.242/21を素材としている「ハンガリー狂詩曲 第14番 S.244/14」(Disc.34)とは類似作品と言えるが、当幻想曲が構想されたのはその狂詩曲よりも前。
HMV : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
タワレコ : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
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December 01, 2013
レスリー・ハワード: リスト ピアノ作品全集 Disc.97
The Complete Liszt Piano Music
ピアノと管弦楽のための作品 3
Disc.97
1.-7. ピアノ協奏曲 第2番 S.125*
8.-13. 深き淵より - ピアノと管弦楽のための器楽詩篇 〔ローゼンブラット校正/ハワード再校正〕 S.121a*
14.-17. 大幻想曲 "さすらい人" S.366 (シューベルト)*
Hyperion CDA67403/4
Recorded: 1997/1998
*カール・アントン・リッケンバッヒャー指揮/ブダペスト交響楽団
〔メモ〕
〔1〕~〔7〕第1番同様にリストの代表的なピアノ協奏曲のひとつ。若き日に草稿が書かれ後年手直しをして完成させたこと、単一楽章であること、草稿の段階で「交響的協奏曲」と書かれていたことなども第1番と共通している。その一方で外面的な部分もある第1番に対し、こちらは概ね内面的、叙情的。複数楽章制ではなく主題変容の技法を使用した大きな単一楽章の(当時としては珍しい)形式を使用した弁明としてリストは「新しいワインには新しいボトルが必要なのだ」と語っている。弟子のハンス・フォン・ブロンザルトへ献呈され、リスト指揮/ブロンザルト独奏で初演された。関連作品「管弦楽の無い協奏曲 S.524a」はDisc.90に収録。 〔8〕~〔13〕フェリシテ・ド・ラムネーとリストがお互いに知っていた単旋律聖歌「深き淵より」を基に書いた協奏的作品。ほぼ完成しているが終結部が無い。自筆譜にはラムネーへ献呈する旨が書かれているが、実際にラムネーへ送られたかどうかは不明。ジェイ・ローゼンブラットがこの作品を演奏可能な状態にし、ここでの録音ではハワードがそれをさらに校正をした。そのローゼンブラット版の他にマイケル・マックスウェル版もあるが、マックスウェル版はオリジナルにはないものをいくつも付けたしており「マックスウェル編曲版」と呼べるようなものに仕上がっている。 〔14〕~〔17〕リストお気に入りであったシューベルトのピアノ独奏曲「さすらい人幻想曲」をピアノと管弦楽のための協奏曲へ編曲したもの。シューベルトの独奏曲よりピアニストへの技巧的負担は少ない。この編曲もとても人気のある時期あった。関連作品「幻想曲 (さすらい人) Op.15 〔指導版〕 S.565a」はDisc.79に収録。
HMV : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
タワレコ : レスリー・ハワード リスト ピアノ作品全集
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November 23, 2013
FRANZ LISZT ● Pièces Tardives
ジョス・ファン・インマゼール
FRANZ LISZT ● Pièces Tardives ● J. van Immerseel - S. Istomin
1. 夜 S.516a
2. 墓場の子守歌 S.196*
3. ゆりかごの歌 S.198
4. エレジー 第2番 S.131*
5. 暗い雲 S.199
6. 忘れられたロマンス S.132*
7. リヒャルト・ワーグナーの墓に S.202
8. ノネンヴェルトの僧房 S.382*
9. 執拗なチャールダーシュ S.225/2
10. 別れ S.251
11. 悲しみのゴンドラ S.134*
12. 凶星 S.208
*チェロ: セルゲイ・イストミン
Zig Zag Territoires ZZT 040902
Recorded: 2004
〔メモ〕
インマゼールご自身が所有する1886年製と1897年製のエラールのフォルテピアノを使用した「後期作品集」と題されたアルバムです。上記トラックリストにて「*」印が付いているものはセルゲイ・イストミンとの共演による「チェロとピアノ稿」の演奏で、それ以外はピアノ独奏です。まず注目されるところはリストの代表的なエレジーが収録されている点です。リストによる「チェロとピアノの作品」は(ピアノ独奏曲に比べれば)数は多くありません。しかし興味深いのはリストの主要なエレジーには「チェロとピアノ稿」があるという点です。エレジー1番2番をはじめ、ノネンヴェルトや悲しみのゴンドラなどです。リストにとってはチェロとエレジーは関連の深いものだったのでしょうか?
リストは晩年に自身の伝記作家であるリナ・ラーマンへの手紙の中で「私は心に深い悲しみを抱えている。この悲しみがあちらこちらに譜面として噴出するのだ」と書き綴っています。リストの後期作品は嘆きに満たされた作品が多いです。ここに収録されている作品もどちらかというと陰鬱で悲しみに満ちた曲が多いですが、しかし救いが無いわけではなく、各曲には祈りのような心やすらぐ部分があると個人的には思います。その対比こそがその作品の魅力となっていると思います。そして「ゆりかごの歌 S.198」や「別れ S.251」のようなやすらぎに満ちた曲も、このプログラムの中では良いアクセントとなっています。
奏者インマゼールはウジェーヌ・トレイにピアノを師事しています。というわけでインマゼールはロベール・カサドシュやギーゼキング直系のピアニストになります。
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